連続ボドゲ小説 〜カタンの開拓者たち〜 8

13.決着

「アタナージウス……」

重苦しい空気の中、悪行が暴かれた男の名をかすかに呼んで、膝をついたのはイリーナの使用人の女だった。

父の死をイリーナとともに間近で確認した人物でもある。

その女が、今こうべを垂れてうなだれている。

イリーナが僕に悲しみを湛えた眼を向けた。

「もう1つの真実があるの。黙っていてごめんなさい。ループレヒト兄様」

本国から未開の無人島開拓を命じられた僕の父親。僕の母親は島暮らしを拒否し、僕と生まれたてのイリーナ、そして移植者たちを連れてカタン島で生活を始めた。

当然だと思うが、父は忙しい立場にあった。僕とイリーナの世話は、移住者の内の1人の女性に任せた。

彼女は無口で無表情だったが、手際よく作業をこなせていた。

あの夜。

父が殺された夜、犯人は見つからなかった。足跡なども発見できなかったし、刃物などの凶器も捨てられておらず、手がかりがなかったからだ。勿論、目撃者もいなかった。

あの日僕が友人の誕生日を祝っていたあの時間に、オスヴァルドは家の中にはおらず、外にいた。あの家に居たのはイリーナとその使用人だけだった。

あれから3年。

マヌエラがうなだれた使用人の前に立った。

「イリーナからその話を聞く機会があってな。

ループレヒト殿の父親が亡くなった日のこと。侵入者の痕跡が見当たらず、証拠も見つからなかった。

どう考えても……その殺害状況で真っ先に疑うのはその時に家にいたイリーナ殿と使用人のそこにいる女」

「しかし父は非力ではない。女性と戦って、首を斬られて負けるとは思えないが」

僕は矛盾を指摘する。

「私もそう思う」

マヌエラは反論せずに頷いた。

「だが、死因が怪我でないとすれば? 可能性はある」

彼女はテーブルに置いてあった小瓶を摘んだ。

「毒だ。瓶には毒が入っていた。イリーナの協力で、この瓶をそこの使用人の部屋から見つけたものだ。薬草に詳しい連中に調べさせたところ、わずかに猛毒が見つかったよ。小さな鼠なら一舐めで死ぬ毒だ。さらに詳しく調べを依頼したところ、エーレンフリートの近くで採取できるキノコから作れるものらしい。使用人のこの女であれば、主人に毒を飲ませる事は容易だ。弱った状態であれば、刃物でトドメを刺すことも容易だ」

応接間は実に長い沈黙が支配した。

それを打ち破ったのは、今まさに3年前の殺人を暴かれたイリーナの使用人だった。イリーナはこの追求のために、彼女をこの場に連れてきていたのか。

「なぜ私がこの場に呼ばれたのかわかりました。……すべてはマヌエラ様の仰る通りですね。言い逃れは致しません。1つだけ、お話させてください…..」

「……話してくれ。僕からもお願いしたい」

真相よりも、彼女の気持ちが知りたかった。

「初めてお話させて頂きます。私は、アタナージウスの姉です。弟は元々、ループレヒト様の父が指導者として指名された事を最初から認めていませんでした。そこで、私が情報を集める為に、旦那様にお仕えさせて頂いていたのです。

しかし、旦那様は富を独占し始め、次第に島の人々との折り合いが悪くなっていきました。

旦那様のやり方に不満が抑えられなくなっていたアタナージウスは、もう殺すしかないと。私にそれをやって欲しいと言ってきました。

イリーナ様やループレヒト様も旦那様に疑問を持ち、このままでは良くないと事あるごとに話されていたのを耳にしていました。弟と、お2人の為に、私はキノコから毒を採取し…..後はマヌエラ様の言う通りです」

「なぜ、なぜそこまでしなくてはいけなかった? 断ることもできたはずだ」

僕は納得できなかった。

「……これ以上の理由はありません」

彼女は、それ以上何を聞いてもその件に関して口を開かなかった。

マヌエラは部下に命じて彼女を捕え、連れて行けと指示を出した。

こうして、カタン島でのマヌエラ最後の日は驚きと哀しみと共に夕暮れを迎えた。

わからないことの全てが解消される事はないのだろう。

父とアタナージウスと、そしてその姉がどういう関係性であったかは本人たちでないとわからないのだ。

アタナージウスはイリーナに殴られて失神したが、回復してマヌエラが本国に連れ帰り裁判にかける事になった。恐らくは死罪であり、残り少ない人生を本国で送るだろう。

エピローグ

僕はカタンの開拓者たちを代表し、島全体を統治することを正式に命じられた。だが、その役割を僕は放棄する事に決めていた。この島の発展、エーレンフリートの発展は僕の功績というよりイリーナが島の外から様々な人や物をもたらしたからに他ならない。その交渉力と行動力はカタン島を統治するに相応しく思えた。

マヌエラが帰還して数ヶ月後。

僕は妹に統治の役割を譲ると、船上の人となった。

今や本国との2カ月に一度の連絡航路が誕生し、定期的に往来できるのだ。

僕は本国へ行き、マヌエラの元で執政官見習いとして働けることになったのだ。

そこで国とは何かを見聞し、いずれカタン島に戻ってさらに発展させることを目標にしている。

船は数週間の旅の後、大きな港についた。カタンの港の比ではない。人が多すぎる。埠頭の人間だけで、カタン島の全人口に及ぶのではないか。僕は眼を見開いた。

船を降りると、人混みの中にマヌエラが待っていた。

「しばらくだな、ループレヒト殿」

「マヌエラ殿もお元気そうです」

軽く握手を交わす。

「早速だが、明日から仕事をしてもらうぞ。まずは……」

冷静なマヌエラがわずかにためらった。

「……まずは私の見合い相手の書類選考だ。父がどうしても、と聞かぬのでな。若干の公私混同があるが致し方ない」

「仕事ならなんでもやらせてください」

この本国では、僕は子供と同じだ。言われたことをまずはこなしていこうと思う。

「そうか。案外つまらない答えだったな。本国流の冗談も、憶えていかないとな。ループレヒト殿」

「……え?あ、わかりました。是非、教えてください」

「なるほど、先は長そうだ」

マヌエラがため息をついた。

僕の開拓者としての役割はこうして終わり、新しい生活が今から始まるのである。